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カテゴリー「2-4 障害者の権利 」の4件の記事

2015年3月 7日 (土)

No.228 障害者への勤務配慮打ち切り(阪神バス)事件、大阪高裁で和解成立

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 障害を持つバス運転手に対する「勤務配慮」を一方的に打ち切った事件(阪神バス事件)について、これまで3度にわたってこのブログで紹介してきた。
 ①No.43 障害者への配慮は「温情」、廃止は「自由」か
 ②No.68 障害者への勤務配慮打ち切りに仮処分命令
 ③No.174 障害者に勤務配慮の継続を命令する判決!
 この事件について、去る2月24日、大阪高裁で和解が成立し、最終的に解決したので、改めて事案と経過、和解内容について、ご報告しておきたい。

◆事案の概要
(1) 原告Aさん(1968年7月生・男性)。
 1992(H4)年に阪神電鉄㈱に入社。
 2009(H21)年4月に阪神電鉄㈱の自動車運送事業部門が阪神バス㈱に承継(分社化)されたため、阪神バス㈱に転籍。
 入社から現在まで、路線バスの運転手として勤務。

(2) 阪神バスにおいては、バス運転手の勤務シフトは、概ね以下の5種類に区別されている。
  ①早朝から午後早い時間まで(「早上がり運番」)
  ②早朝から夕方まで(「通常・延長運番」)
  ③朝のラッシュ時に勤務後、勤務終了し、夕方ラッシュ時に再度勤務(「分割運番」)
  ④午後の早い時間から深夜まで(「深夜運番(通常)」)
  ⑤午後遅くから深夜まで(「深夜短時間運番」)
 通常のバス運転手は、上記①~⑤の勤務シフトをランダムに割り当てられている。

(3) 1997(H9)年に「腰椎椎間板ヘルニア」を発症。その術後後遺症で「末梢神経障害」・「馬尾症候群」による排尿と排便の障害が残った。現時点では、排尿については勤務に支障のない程度に回復しているが、排便については、自然に排便することができず、毎晩就寝前に下剤を服用して翌朝起床してから数時間かけて強制的に排便しなければならない。
 しかし、Aさんは、排便障害のために下剤を服用して毎朝数時間かけて強制的に排便しているため、午前中の勤務シフトを担当することが難しく、また、下剤を服用して強制的に排便するため毎日決まった時間に下剤を服用することが望ましくランダムに勤務シフトを割り当てられると対応が困難である。
 そのため、試行錯誤の結果、遅くともH15(2003)年頃からは、原則として、上記⑤「深夜短時間運番」のみを割り当てるという「勤務配慮」が行われてきた。

(4) ところが、会社は、H23(2011)年1月から「勤務配慮を廃止して、通常の勤務シフトで勤務させる」として、Aさんに対する「勤務配慮」を打ち切り、上記①~⑤の勤務シフトをランダムに割り当てるようになった。
 その結果、Aさんは勤務時間に合わせて排便をコントロールすることができなくなり、2011年1月だけで当日欠勤が3回、同年2月は6回、同年3月は8回にも及ぶことになった。
 そこで、「勤務配慮」を受けない通常の勤務シフトでの勤務する義務のないことの確認を求める裁判(本訴及び仮処分)を提訴した。

◆主たる争点
 身体や精神に長期的な障がいがある人への差別撤廃・社会参加促進のため、2006年の国連総会で「障害者権利条約」が採択された(日本は2014年1月20日に批准)。同条約では、①直接差別、②間接差別、③合理的配慮の欠如の3類型をいずれも障がい者に対する差別として禁止している。合理的配慮とは、「障がいのある人に対して他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、不釣り合いな又は過度な負担を課さないもの」と定義される。

 Aさんの勤務シフトに関する「勤務配慮」は、この障害者権利条約の「合理的配慮」にあたるものであり、これを一方的に打ち切ることは、障害者権利条約が禁止している障がい者に対する差別に該当し、私法関係においては公序良俗違反ないし信義則違反として無効だというべきではないか。

◆裁判の経過
H23(2011)年3月4日  第1次仮処分 申立(神戸地裁尼崎支部)
      8月4日   第1次仮処分 和解成立(H24.3.31まで勤務配慮する)
      8月26日  本訴訟 提訴(神戸地裁尼崎支部)
H24(2012)年2月7日  第2次仮処分 申立(神戸地裁尼崎支部)
      4月9日   第2次仮処分 決定 神戸地裁尼崎支部(判例タイムス1380-110、労働判例1054-38)
            →会社が「勤務配慮」を打ち切ったことが公序良俗違反ないし信義則違反で無効だとして、「勤務配慮」がないままでの勤務シフトによって勤務する義務のないことを仮に確認。
      7月13日  第2次仮処分 保全異議決定 神戸地裁尼崎支部(労働判例1078-16)
H25(2013)年5月23日  第2次仮処分 保全抗告決定 大阪高裁(労働判例1078-5)
H26(2014)年4月22日  本訴訟 第1審判決 神戸地裁尼崎支部(判例時報2237-127、労働判例1096-44)
H27(2015)年2月24日  大阪高裁にて和解成立
 このように、これまでに上記の下線をつけたとおり、裁判所の判断が4度にわたって示されており、いずれも原告Aさんを勝訴させるものであった。

◆和解の概要(大阪高裁第13民事部平成27年2月24日)
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(1)会社は、「勤務配慮」が労働条件であって、その内容は労使間で誠実に協議したうえ合意によって決定すべきものであることを確認する。
(2)会社は、以下の内容の「勤務配慮」を行う。
 ①出勤時刻が午後0時以降
 ②時間外勤務がない
 ③前日の勤務終了から当日の勤務開始までの間隔が14時間以上
 ④拘束時間が1日9時間未満
(3)病状が改善又は悪化した場合は、その時点での病状にあった「勤務配慮」に変更するべく、労使間で誠実に協議する。

◆本件和解の評価
1、本件和解において、会社が従前から行ってきた「勤務配慮」は単なる温情的措置ではなく労働条件であり、そうである以上、その変更は労使間で誠実に協議すべきものであることを確認した意義は大きい。
2、今後行う勤務配慮の内容についても、Aさんの現状を十分考慮した内容となり、今後Aさんが安心して働き続けることができるものとなった。
3、折しも、2006年に国連で定められた「障害者権利条約」が日本でも2014年1月20日に批准された。この条約では、差別には①直接差別、②間接差別、③合理的配慮の欠如の3類型があるとしているが、本件は、会社がAさんに対して行ってきた合理的配慮としての「勤務配慮」を一方的に打ち切るものであり、障害者差別の③の類型に該当するものであった。
 本裁判で、Aさんに対する勤務配慮が維持され、会社との労働条件として確認されたことは、この障害者権利条約の理念に沿うものとして、評価されるべきである。
4、Aさんは、会社が勤務配慮を打ち切ると通告してから約4年間にわたって、仮処分と本裁判を余儀なくされてきた。ようやく最終解決を勝ち取ったAさんの頑張りに、心から敬意を表したい。
(なお、弁護団は、中西基、立野嘉英と私である。)

 ※上の画像は、「フォト蔵」のサイトから借用させていただきました。御礼申し上げます。


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2014年4月24日 (木)

No.174 障害者に勤務配慮の継続を命令する判決!

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 バスの運転手が中途障害(排便障害)のために受けてきた「勤務配慮」が、分社化に伴って打ち切られた事件の本裁判で、2014年4月22日、神戸地裁尼崎支部で勝訴判決をもらうことができた。
 事案については、「No.43 障害者への配慮は「温情」、廃止は「自由」か」で紹介し、また2012年4月9日の仮処分決定については「No.68 障害者への勤務配慮打ち切りに仮処分命令」で既に紹介しているので、参照されたい。

<裁判の経緯>
 H23(2011)年3月 4日  第1次仮処分 申立
        8月 4日   第1次仮処分 和解成立(H24.3.31まで勤務配慮する)
       8月26日  本訴訟 提訴
 H24(2012)年2月 7日  第2次仮処分 申立
        4月 9日   第2次仮処分 決定(労働判例1054号38頁)
               →会社が「勤務配慮」を打ち切ったことが公序良俗違反ないし信義則違反で無効だとして、「勤務配慮」がないままでの勤務シフトによって勤務する義務のないことを仮に確認。
        7月13日  第2次仮処分 保全異議決定(労働判例1078号16頁)
 H25(2013)年5月23日  第2次仮処分 保全抗告決定(労働判例1078号5頁)
 H26(2014)年4月22日  本訴訟 判決

 原告が求めていたのは、次の3点であった。
 ①出勤時刻が午後1時以降となる勤務を担当させること。
 ②原則として、前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの感覚を14時間空けること。
 ③原則として、時間外勤務とならない勤務を担当させること。

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 先に出された仮処分決定、及びこれについての保全異議決定、保全抗告決定はこれらをすべて認めたが、本判決は、①と③のみを認め、②までの合意は認められないとし、また、強引に勤務配慮を打ち切ったことについての慰謝料請求を棄却した点は不満が残るが、最も重要な①と③を本案判決として初めて認めた点で、画期的な意義を有するものである。

 弱い立場にある労働者が、働き続けながら、会社を相手に裁判をするというのは、大変なことである。
 普通の労働者に過ぎないAさんが、一生懸命裁判に取り組む姿を見ると、私は次の日本国憲法の条文を思い出す。

第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第九十七条  この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 障害を持つ人たちは、好きで障害を持つのではない。「誰でも突然障害者になり、誰でもいつかは障害者になる」のである。障害者がいきいきと働ける社会は、健常者にとっても安全で健康に働ける社会である。
 会社は、これ以上Aさんを苦しめることはやめて、Aさん以外の労働者に理解を広げ、障害があっても合理的な配慮を行って働き続けられる職場を作る立場に立ってほしいと、切に願う。
 (なお、弁護団は、中西基、立野嘉英弁護士と私である。)

(以下、新聞記事の引用)

◆阪神バス:障害配慮のシフト打ち切り無効 神戸地裁支部  毎日新聞 2014年04月23日00時25分(最終更新 04月23日 00時31分)

 障害がある阪神バス(兵庫県尼崎市)の男性運転手(45)が、分社化に伴って障害に配慮した勤務シフトを打ち切られたのは違法として、同社にシフトの継続などを求めた訴訟の判決が22日、神戸地裁尼崎支部(田中俊次裁判長、本多俊雄裁判長代読)であった。「法律で保護された男性の利益が一方的に奪われ、無効」として、原告の訴えをほぼ認めた。原告弁護団は「障害に配慮した勤務シフトを企業に命じた判決は珍しい」としている。

 判決によると、男性は1992年に阪神電鉄に入社し、バス運転手として勤務。97年に受けた腰の手術の後遺症から、自分の意思で排せつを制御できない障害があると診断された。同社は男性を午後からの勤務に限定するなどしてきたが、2009年4月の分社化で阪神バスに転籍後、11年1月からは早朝勤務などもある勤務シフトが組まれ、欠勤が増えたという。

 判決で、田中裁判長は「法律上は分社化後も従来の労働契約が継承される」と判断。午後からの勤務としたうえで時間外労働をしないシフトを組むよう、同社に命じた。100万円の慰謝料などの請求は認めなかった。

 判決後、記者会見した男性は「主張が認められ、うれしい。希望を持って働ける」と話した。阪神バスは「判決内容を精査し、慎重に対応する」とコメントした。【米山淳】

障害への配慮打ち切りは無効=会社側の説明不十分―神戸地裁尼崎支部
 時事通信 4月22日(火)19時47分配信

 会社分割による転籍後、障害に配慮した勤務シフトが打ち切られたのは不当として、兵庫県に住む運転手の男性(45)が、勤務先の阪神バス(同県尼崎市)に、配慮のないシフトで勤務義務がないことの確認などを求めた訴訟の判決で、神戸地裁尼崎支部(田中俊次裁判長、本多俊雄裁判長代読)は22日、男性の主張を認め、同社に出勤時刻が正午以降となる勤務を担当させることなどを命じた。
 原告側代理人は「障害を持つ労働者に対する合理的な配慮を求めた訴訟の判決は初めてではないか」と話している。
 判決によると、阪神電鉄でバス運転手として勤めていた男性は、腰椎椎間板ヘルニアの後遺症で排便障害が残り、午前中の勤務が難しくなった。同社と話し合い、2003年ごろから原則として深夜帯のみ勤務していた。
 09年に阪神電鉄の自動車運送事業部門が阪神バスに承継されたことに伴い、男性は転籍したが、同社は11年1月に勤務配慮を廃止。通常シフトでの勤務を命じたため、男性が同年8月、提訴していた。
 田中裁判長は、阪神電鉄が分割する際、原告らに労働契約承継法に基づき、従前の労働契約が新会社に承継されることを説明しておらず、「勤務配慮を認めない」とする労働組合との合意は、公序良俗に反し無効として、男性の主張を認めた。
 阪神バス総務部の話 判決内容を精査した上で、慎重に対応を検討したい。

障害配慮の勤務シフト、阪神バスに命令 地裁尼崎支部
 神戸新聞NEXT 4月22日(火)20時40分配信

 排せつ障害がある兵庫県在住の男性運転手(45)が、勤務する阪神バス(兵庫県尼崎市)に障害へ配慮した勤務シフトなどを求めた訴訟の判決が22日、神戸地裁尼崎支部であった。田中俊次裁判長(本多俊雄裁判長代読)は男性の請求を一部認めた。

 判決によると、男性は1992年に阪神電鉄に入社。その後、手術の後遺症で排せつをコントロールできなくなった。電鉄側と、正午以降の時間帯を担当し、時間外勤務をしないなどの労働契約で合意。しかし2009年、分社化に伴って阪神バスに転籍となり、11年1月からは通常のシフトで働くよう求められたという。

 田中裁判長は「転籍しても労働契約は継承されるべきだ」とした。一方、男性の求めていた慰謝料などは棄却した。

 原告側代理人の中西基弁護士は「障害のある労働者への配慮について争われた裁判は初めて」と述べ、男性は「働き続けられる希望ができた」と話した。

 阪神バスは「判決の内容を精査して対応を検討する」とコメントした。


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2012年4月17日 (火)

No.68 障害者への勤務配慮打ち切りに仮処分命令

◆画期的な仮処分決定
 No.43(2011年8月24日)に書いた事案で、排泄障害を持ったバス運転手のAさん(43歳)に対して、長年行ってきた勤務配慮を打ち切った阪神バス株式会社に対し、神戸地裁尼崎支部は、本年4月9日付けで、次のような仮処分命令を行った。

 ①出勤時刻が午後1時以降となる勤務を担当させること。
 ②原則として、前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの感覚を14時間空けること。
 ③原則として、時間外勤務とならない勤務を担当させること。

◆これまでの経過の概略
 この件の経過は、次のようなものである。
 ①2011年1月1日 Aさんへの勤務配慮を打ち切り、通常勤務シフト(不規則、長時間拘束を含む)に戻す。その結果、当日欠勤が激増。
 ②    3月4日 仮処分命令申立
 ③    8月8日 和解成立(勤務配慮を本年3月末まで延長)
 ④    8月26日 本訴提起
 ⑤2012年2月7日 再度の仮処分命令申立
 ⑥    4月1日 Aさんを通常勤務シフトに戻す
 ⑦    4月9日 仮処分決定

◆仮処分決定のポイント
 上記のように、まだ本訴が係属中であり、仮処分決定は最終的な解決ではない。
 しかし、決定が次のように述べていることは、裁判所の一般的な判断を示すものであり、大変意味のあることと思われる。

 「身体障害者に対し適切な配慮を行うことは、厚生労働省の障害者雇用対策基本方針においても求められており、障害者に対し、必要な勤務配慮を合理的理由なく行わないことは、法の下の平等(憲法14条)の趣旨に反するものとして公序良俗(民法90条)ないし信義則(同法1条2項)に反する場合があり得ると解される。
 すなわち、4者合意が債権者に対して規範的効力を有するとしても、そのまま勤務配慮を廃止することが、公序良俗又は信義則に反する可能性があり得るから、この点について検討する。」

 「勤務配慮を行わないことが公序良俗又は信義則に反するか否かについては、①勤務配慮を行う必要性及び相当性と、②これを行うことによる債務者に対する負担の程度とを総合的に考慮して判断をする。」

 (①について)「債権者(注、Aさんのこと)が求める勤務配慮については、その必要性が一応認められる。そして、排便のコントロールが困難であるという債権者の症状と、その職務がバスの運転であり、乗客はもとより他の車両に乗車した者や歩行者等も含めた生命・身体等の安全の確保が強く求められるものであることに鑑みれば、上記配慮をすべき必要性は強いものといえる。」

 (②について)「債務者の事業規模に加え、債権者が所属する尼崎営業所に在籍する運転士数が平成24年3月時点で194名あり、実際に債権者が担当する運番を当日になって欠勤した場合に、4名の運転士によりバスの運行に支障の生じないような乗務分担の変更ができたこと‥‥も考慮すれば、債権者に対する勤務配慮が、債務者にとって過度の負担となっていないことも一応認められる。

 「これらの事情を総合的に考慮すれば、債権者に対する勤務配慮を行わないことが公序良俗ないし信義則に反するとする債権者の主張は、一応認められる。」

マスコミ報道
 この仮処分決定について、いくつかの新聞・テレビで報道がなされた。

(共同通信 2012年4月16日)
神戸地裁が障害配慮の勤務シフト命じる

 阪神バス(兵庫県尼崎市)に勤務する障害のある男性運転手(43)が、障害に配慮した勤務シフトを打ち切らないよう仮処分申請し、神戸地裁尼崎支部(揖斐潔裁判長)が運転手の申し立てを認める決定をしていたことが16日、代理人弁護士への取材で分かった。決定は9日付。

 決定書は、男性の勤務を正午以降とすること、前日の勤務と翌日の勤務を14時間空けることなどを命じている。

 男性は1997年に受けた手術の後遺症で自由に排せつができない障害がある。午前を強制的な排せつの時間に充てるため、午後遅い時間からの勤務シフトに固定することを認められていたが、2011年1月から配慮がなくなり、男性は欠勤が相次いだ。

 運転手はシフト継続の仮処分を同支部に申請、昨年8月の暫定的和解でシフトの配慮が認められたが、ことし3月末までの期限付きだったため、永続的な配慮を求め昨年8月に提訴、ことし2月に仮処分も申請した。

 代理人の岩城穣弁護士は「障害がありながら働いている人に対して合理的な配慮をするのが潮流」とし、阪神バスは「係争中でありコメントを差し控える」としている。(共同)

120416 (ABCニュース:関西 2012/04/16)
<兵庫>「バス運転手の障害に配慮を」仮処分決定

 体に障害のある阪神バスの運転手が、「障害に配慮した勤務シフトを打ち切らないでほしい」と求めていた裁判で、裁判所が運転手の主張を認める仮処分決定を出していたことがわかりました。運転手は、「(主張を)一部でも認めてもらったことは大変うれしい」と話しています。

 阪神バスの男性運転手(43)は、手術の後遺症で排便がスムーズにできない障害があるため、およそ10年にわたり「午後の乗務に固定する」などの勤務配慮を受けてきました。しかし、会社は運転手不足などを理由に、男性への配慮を打ち切る方針を示し、今月から男性を通常勤務に戻しました。一方、男性は会社を相手にこれまで通りの配慮を求める仮処分を申し立てていました。裁判所は先週、「バスの安全運行の観点からも勤務配慮はすべきだ」と指摘。男性の申し立てを仮に認める決定を出しました。運転手は、「ちょっと(勤務)時間をずらしてもらうだけで、運転は支障なくできる」と述べています。仮処分決定を受けて阪神バスは、男性の勤務についての配慮を元通りに復活させたということです。

 引き続き、本訴でも勝訴できるよう、頑張っていきたい。

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2011年8月24日 (水)

No.43 障害者への配慮は「温情」、廃止は「自由」か

◆Aさんの中途障害

110823  Aさん(43歳)は、1992年に阪神電鉄に入社し、バス事業部門で一貫して勤務してきたベテラン運転手である。
 ところが、1997年に受けた「腰椎椎間板ヘルニア」の手術の後遺症で「神経因性膀胱直腸障害」で「排尿・排便異常」の身体障害が残った。この障害は、排尿や排便を自分の意思でコントロールすることができず、下剤を服用するなどして数時間をかけて強制的に排便するなどが必要なものである(なお、現時点では、排尿については勤務に支障のない程度に回復している)。

◆「勤務配慮」による安定した勤務

 当時阪神電鉄には「勤務配慮」という制度があった。これは、心身の状況や家庭の事情等によって、決められた労働条件に従って勤務するのが困難な労働者について、本人からの申し出を受けて個別協議を行い、勤務に支障が生じないように必要な配慮を行う制度である。
 Aさんはこの制度を利用して協議を行い、①乗務は午後からとする、②時間外労働は避ける、③前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの間隔を14時間、最短でも12時間以上空けることとする、という「勤務配慮」を受けてきた。

◆バス事業の分社・統合と「勤務配慮」制度の廃止

 ところが、2009年、バス事業部門が分社化され、従前からあった阪神バスに統合されたが、その際、阪神電鉄・同社労組、阪神バス・同社労組の「4者協議に関する合意書」で、「勤務配慮は原則として認めない」とされた。
 Aさんは2009年4月に阪神バスに移籍したが、勤務配慮はしばらく続けられたものの、2011年1月から「勤務配慮を廃止して、通常の勤務シフトで勤務させる」と一方的に通告され、実行された。
 その結果、Aさんは勤務時間に合わせた排便コントロールが全くできなくなり、2010年1月~12月の1年間で当日欠勤(欠勤扱い)は0回、当日欠勤(年休扱い)は4回しかなかったのに、2011年1月だけで当日欠勤(欠勤扱い)3回、2月は6回、3月は8回に及ぶことになった。このままでは解雇されたり退職せざるを得なくなるとは明らかである。
 Aさんは、通常シフト(ローテーション)での勤務を行う義務のないことの確認を求める仮処分命令申立を行ったが、会社は「勤務配慮は温情的措置にすぎず、労働条件ではない」「勤務配慮を無制限に続けることは、乗務員間の公平感を損ない、ひいてはバス事業の正常な運営に支障を来す」と主張して争ったため、仮処分事件は来年3月まで勤務配慮を延長することで和解し、訴訟によって解決することとなった。

◆障害者権利条約を中心とする世界と日本の流れ

 身体・精神に長期的な障害がある人への差別撤廃・社会参加促進のため、障害者権利条約が2006年に国連総会で採択された。そこでは、障害に基づく差別を、①直接差別、②間接差別、③合理的配慮の欠如の3類型として禁止している。
 2011年3月現在の批准国は99か国である。日本はまだ批准していないが、2007年9月に署名し、現在国内法を整備して批准に向けた準備が進められている段階である。
 また、仮に条約の批准前であっても、日本国憲法14条1項は「法の下の平等」を定め、あらゆる差別を禁止しているのだから、既に国際的に承認されている上記のような差別類型は、日本国憲法も禁止していると解すべきである。

◆「勤務配慮」の一方的廃止は障害者に対する差別にあたる

1108222  本件における「勤務配慮」は、結果として上記の「合理的配慮」に当たるものであり、これを廃止することは、障害者権利条約が禁止している差別に該当することは明らかである。
 障害者権利条約を批准しても、実際にそれが多くの民間企業で実現されなければ意味がない。その意味で、大企業は率先して合理的配慮を行っていくべきであるのに、この会社は、逆に、これまでの「勤務配慮」を廃止しようとしているのだから、企業の社会的責任(CSR)の見地からいっても、言語道断といわなければならない。
 会社は、乗務員間の不公平感をいうが、阪神バスには370人もの運転手が在籍し、Aさんへの勤務配慮を続けることは、決して困難ではないし、多くの運転手の人たちは、Aさんの事情を知れば、不公平感を持つことはないのではなかろうか。
 そして、そのような啓発活動こそ、会社が行っていくべきではないのか。

◆障害は、社会との関係で障害となる

 世界保健機構(WHO)は1981年の国際障害者年に際し、障害を3つの段階で定義している。

  ①impairment(機能的、形態的な身体障害)
  ②disability(能力的障害)
  ③handicap(社会的不利)

 これは、視覚障害を例に取ると、視神経に機能的に問題がある場合が「impairment(機能的障害)」。それが視力に影響を及ぼし、近視や視野変状になった場合が「disability(能力的障害)」。それによって社会生活に支障が起きるほどであった場合が「handicap(社会的障害)」である。
 ①の「impairment(機能的障害)」があっても、「道具」(眼鏡やパソコン画面の拡大など)によって②の「disability(能力的障害)」はカバーされうるし、②があっても、社会がそれを「道具」や「仕組み」によって補えば、③の「handicap(社会的障害)」とならなくて済むのである。
 つまり、機能・能力障害は、社会の配慮との相関関係で「社会的障害」となるのである。

 そもそも、視力をはじめ、誰でも能力において平均より劣る点があり、結局は程度の差である。そう考えると、①・②の障害は、ある意味でその人の「個性」といえる。
 そんな人たちに対して、できるだけ社会の側が配慮して、その障害が③の社会的障害にならないようにしようというのが、障害者の権利の歴史であった。
 だから、障害者が安心して働ける・生きられる社会は、障害を持つに至っていない健常者にとっても働きやすい・生きやすい社会なのである。

 それゆえに、阪神バスのように、障害者と健常者を対立的にとらえることは誤っている。
 Aさんの提訴は、決してAさんだけのためではない。障害を持ちながらも、また障害を持つようになっても、安心して働けることを願う、すべての人々のためでもあるのである。

◆多くの皆さんのご支援を

 8月26日(金)午前10時30分に、神戸地裁尼崎支部に、訴訟を提起することになった。
 この提訴の動きは、朝日新聞(2011年8月22日夕刊)に大きく報道された。
 Aさんのように、働き続けながら会社と裁判をすることは、大変なことである。
 皆さんの注目と支援をお願いしたい。
         (なお、弁護団は、中西基、立野嘉英弁護士と私である。)

 写真上‥阪神バス(ウィキペディアより)
 写真下‥朝日新聞記事(クリックすると拡大)

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