No.44 手足が取れてしまったカニ
今年も8月の終わりが近づいてきた。この頃になると思い出すことがある。
小学校4、5年のころだっただろうか。
当時は、ほとんど毎年7月24日ころから8月31日まで夏休みであり、その間4、5日の「登校日」を除けば、毎日毎日休みの連続だった。
近くの神社にあった広場で早朝ラジオ体操があり、また午後からは小学校のプールに毎日のように行っていたが、それ以外は、現在のように塾もなく、遊び呆けていたというのが正しい。
またTVゲームやパソコンゲームもないので、家の中で遊ぶということはあまりなく、ほとんどは外で遊んでいた。
そんな私たち子どもにとって、夏休みの宿題というのは、本当にうっとうしい存在であった。
もっとも、宿題といっても、①「夏の友」という書き込み式の課題用冊子、②読書感想文、③工作の3つくらいだった。
①の「夏の友」は、比較的簡単なものであり、その気になれば一気にやれた。
②の読書感想文は、何を書いたかよく覚えていないが、適当にお茶を濁したのだろう。
私の悩みの種は、いつも③の工作であった。
(1) そもそも、何を作るかが悩ましい。
(2) 目標を決めてから、完成までの段取り(材料の用意、準備、製作)を決めなくてはならない。
(3) 実際の製作作業は、相当根をつめて作業しなければならない。
それだけに、早くから準備を始めればよいのに、この年の私は、やりたくない工作のことを「考えないように」して先送りし続け、最後に尻に火がついて着手したのは、8月31日の夕方ころからだった。
しかも、もう時間がないのだから、簡単なものをアリバイ的に作ればよいのに、考え始めると「凝り性」の私は、何と「紙粘土でカニを作る」という、最悪の選択をしてしまったのである。
当時、田舎の川や池で魚取りなどをしていて、大きな石を持ち上げたりすると、隠れていた大きなカニが見つかることがたまにあり、戦車のように渋くて、メカニックでとてもカッコいいと思っていたのである。
しかし、紙粘土でカニを作るというのは、簡単ではない。割り箸と針金か何かで、紙粘土の中に入れる骨組みを作るのだが、当然のことながらカニには手が2本、足が8本もあり、骨組みを作ることに苦心惨憺であった。
そして、骨組みを巻き込むようにして紙粘土をくっつけていき、胴体や手足を作る作業に入ったのは、もう日付が変わるくらいの時間になっていた。
なかなか思うように進まないところに、子どもだから目茶苦茶眠い(昔は午後9時とか10時ころには子どもは寝ていたのではないか)。明日までに間に合うのか。できなかったらどうなるか‥‥。
眠さと不安で泣けてきた。そこに、仕方なく手伝ってくれていた母親が、「だから早くからやりなさいと、あれほど言ってたのに、お前は‥‥」と、追い打ちをかけるように小言を言う。
そんな自分が悲しくて、更に泣いた。
何とか作り上げて眠ったのは、もう何時になっていただろうか。
ところが、本当の悲しみは、翌朝に訪れた。
作った工作を見ると、恐らく紙粘土が乾燥したために、手足が全部取れてしまっていたのである。
また私は泣いた。
登校した生徒たちは、夏休みの工作を教室の後ろにズラッと並べる。
私の作ったカニは、手足が全部取れた状態で、悲しげに並んでいた。
そこで、子どもなりに得た教訓は‥‥
①課題の準備は、先送りにしないで、早くから始めること。
②状況に合わせて作成し、必要以上に凝らないこと。
ところで、弁護士の仕事も、次回の期日や打合せまでに1か月くらいあり、夏休みの宿題に似ている。
カニの手足が取れても誰にも迷惑はかけないが、弁護士の仕事の場合は、依頼者や裁判官、弁護団などの関係者に迷惑がかかる。
それだけに、カニの教訓を生かして、いつも段取りを考えるようにしているが、恐らく性分であろう、なかなか思うようにいかないのである。
※イラスト(上) 「Hiro式無料イラスト素材工房」からいただきました。
(下) 「カニのイラスト素材画像集」からいただきました。
ありがとうございました。
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