2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
フォト

« No.42 小豆島での熱き3日間~働き方ネット大阪 事務局合宿~ | トップページ | No.44 手足が取れてしまったカニ »

2011年8月24日 (水)

No.43 障害者への配慮は「温情」、廃止は「自由」か

◆Aさんの中途障害

110823  Aさん(43歳)は、1992年に阪神電鉄に入社し、バス事業部門で一貫して勤務してきたベテラン運転手である。
 ところが、1997年に受けた「腰椎椎間板ヘルニア」の手術の後遺症で「神経因性膀胱直腸障害」で「排尿・排便異常」の身体障害が残った。この障害は、排尿や排便を自分の意思でコントロールすることができず、下剤を服用するなどして数時間をかけて強制的に排便するなどが必要なものである(なお、現時点では、排尿については勤務に支障のない程度に回復している)。

◆「勤務配慮」による安定した勤務

 当時阪神電鉄には「勤務配慮」という制度があった。これは、心身の状況や家庭の事情等によって、決められた労働条件に従って勤務するのが困難な労働者について、本人からの申し出を受けて個別協議を行い、勤務に支障が生じないように必要な配慮を行う制度である。
 Aさんはこの制度を利用して協議を行い、①乗務は午後からとする、②時間外労働は避ける、③前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの間隔を14時間、最短でも12時間以上空けることとする、という「勤務配慮」を受けてきた。

◆バス事業の分社・統合と「勤務配慮」制度の廃止

 ところが、2009年、バス事業部門が分社化され、従前からあった阪神バスに統合されたが、その際、阪神電鉄・同社労組、阪神バス・同社労組の「4者協議に関する合意書」で、「勤務配慮は原則として認めない」とされた。
 Aさんは2009年4月に阪神バスに移籍したが、勤務配慮はしばらく続けられたものの、2011年1月から「勤務配慮を廃止して、通常の勤務シフトで勤務させる」と一方的に通告され、実行された。
 その結果、Aさんは勤務時間に合わせた排便コントロールが全くできなくなり、2010年1月~12月の1年間で当日欠勤(欠勤扱い)は0回、当日欠勤(年休扱い)は4回しかなかったのに、2011年1月だけで当日欠勤(欠勤扱い)3回、2月は6回、3月は8回に及ぶことになった。このままでは解雇されたり退職せざるを得なくなるとは明らかである。
 Aさんは、通常シフト(ローテーション)での勤務を行う義務のないことの確認を求める仮処分命令申立を行ったが、会社は「勤務配慮は温情的措置にすぎず、労働条件ではない」「勤務配慮を無制限に続けることは、乗務員間の公平感を損ない、ひいてはバス事業の正常な運営に支障を来す」と主張して争ったため、仮処分事件は来年3月まで勤務配慮を延長することで和解し、訴訟によって解決することとなった。

◆障害者権利条約を中心とする世界と日本の流れ

 身体・精神に長期的な障害がある人への差別撤廃・社会参加促進のため、障害者権利条約が2006年に国連総会で採択された。そこでは、障害に基づく差別を、①直接差別、②間接差別、③合理的配慮の欠如の3類型として禁止している。
 2011年3月現在の批准国は99か国である。日本はまだ批准していないが、2007年9月に署名し、現在国内法を整備して批准に向けた準備が進められている段階である。
 また、仮に条約の批准前であっても、日本国憲法14条1項は「法の下の平等」を定め、あらゆる差別を禁止しているのだから、既に国際的に承認されている上記のような差別類型は、日本国憲法も禁止していると解すべきである。

◆「勤務配慮」の一方的廃止は障害者に対する差別にあたる

1108222  本件における「勤務配慮」は、結果として上記の「合理的配慮」に当たるものであり、これを廃止することは、障害者権利条約が禁止している差別に該当することは明らかである。
 障害者権利条約を批准しても、実際にそれが多くの民間企業で実現されなければ意味がない。その意味で、大企業は率先して合理的配慮を行っていくべきであるのに、この会社は、逆に、これまでの「勤務配慮」を廃止しようとしているのだから、企業の社会的責任(CSR)の見地からいっても、言語道断といわなければならない。
 会社は、乗務員間の不公平感をいうが、阪神バスには370人もの運転手が在籍し、Aさんへの勤務配慮を続けることは、決して困難ではないし、多くの運転手の人たちは、Aさんの事情を知れば、不公平感を持つことはないのではなかろうか。
 そして、そのような啓発活動こそ、会社が行っていくべきではないのか。

◆障害は、社会との関係で障害となる

 世界保健機構(WHO)は1981年の国際障害者年に際し、障害を3つの段階で定義している。

  ①impairment(機能的、形態的な身体障害)
  ②disability(能力的障害)
  ③handicap(社会的不利)

 これは、視覚障害を例に取ると、視神経に機能的に問題がある場合が「impairment(機能的障害)」。それが視力に影響を及ぼし、近視や視野変状になった場合が「disability(能力的障害)」。それによって社会生活に支障が起きるほどであった場合が「handicap(社会的障害)」である。
 ①の「impairment(機能的障害)」があっても、「道具」(眼鏡やパソコン画面の拡大など)によって②の「disability(能力的障害)」はカバーされうるし、②があっても、社会がそれを「道具」や「仕組み」によって補えば、③の「handicap(社会的障害)」とならなくて済むのである。
 つまり、機能・能力障害は、社会の配慮との相関関係で「社会的障害」となるのである。

 そもそも、視力をはじめ、誰でも能力において平均より劣る点があり、結局は程度の差である。そう考えると、①・②の障害は、ある意味でその人の「個性」といえる。
 そんな人たちに対して、できるだけ社会の側が配慮して、その障害が③の社会的障害にならないようにしようというのが、障害者の権利の歴史であった。
 だから、障害者が安心して働ける・生きられる社会は、障害を持つに至っていない健常者にとっても働きやすい・生きやすい社会なのである。

 それゆえに、阪神バスのように、障害者と健常者を対立的にとらえることは誤っている。
 Aさんの提訴は、決してAさんだけのためではない。障害を持ちながらも、また障害を持つようになっても、安心して働けることを願う、すべての人々のためでもあるのである。

◆多くの皆さんのご支援を

 8月26日(金)午前10時30分に、神戸地裁尼崎支部に、訴訟を提起することになった。
 この提訴の動きは、朝日新聞(2011年8月22日夕刊)に大きく報道された。
 Aさんのように、働き続けながら会社と裁判をすることは、大変なことである。
 皆さんの注目と支援をお願いしたい。
         (なお、弁護団は、中西基、立野嘉英弁護士と私である。)

 写真上‥阪神バス(ウィキペディアより)
 写真下‥朝日新聞記事(クリックすると拡大)

         ↓   ↓   ↓  
♪ここまで読んで下さった方は・・・ワンクリックしていただけたら嬉しいです。
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

« No.42 小豆島での熱き3日間~働き方ネット大阪 事務局合宿~ | トップページ | No.44 手足が取れてしまったカニ »

1-1 法律・裁判あれこれ」カテゴリの記事

2-4 障害者の権利 」カテゴリの記事

コメント

 毎日の業務お疲れさまでございます。

 岩城先生のご活躍振りには、感動しておりますが、お酒を飲み過ぎないようにとか奥様に言われていることを、クライアントに書かれないようにしないと駄目ですね(笑)。

 8月25日は、「弁護過誤事件」で高裁判決です。
当然に一審判決もでかでかと新聞に掲載されていましたので、今回は一審判決を書いてくれた記者を呼んでいます(笑)。

 まあ、裁判官の様子から敗訴はないと思っているのですが、当職も緊張しています。元岡山弁護士会会長までが、高裁の証拠調べ(証人尋問)で出てきた事件でしたので、どういう判決なんだろうとは思っています。

 取り敢えず当職は、自身の裁判で一審・二審とも合議法廷で「棄却する」と言われ続けた上に、一審では、異例の立ち見の傍聴人まで入廷させ、100人近くいましたので、判決理由の内容では勝っていたのですが、判決恐怖症となっており、当日も聞きに行けるかどうかは分かりません。

 それでも、新聞社も呼んでおりますし、いつまでもそのように根性がないことでは務まりませんので、腹を括って判決を聞きに行きたいと思っています。

 岩城弁護士の事件で判決に間に合わないのは残念ですが、他の過労死事件の裁判が入っておられるということでやむを得ないと思っています。

 当職と立野弁護士とクライアントの3人で、シッカリと高裁判決は聞きたいと思っています。直ぐに、お電話いたします。
判決言い渡しは、13時10分ですから、15分にはお電話致します。

 地裁から4年間闘って、非常に難しい事件でした。
だから、万一敗訴されていたら、来られることはないと思っています。当職は、一審同様に勝訴していると信じて、新聞社も呼んでいます(笑)。

 取り敢えず、判決言い渡しの主文を聞いたら、直ぐにお電話をします。よろしくお願い申し上げます。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/573062/52552912

この記事へのトラックバック一覧です: No.43 障害者への配慮は「温情」、廃止は「自由」か:

« No.42 小豆島での熱き3日間~働き方ネット大阪 事務局合宿~ | トップページ | No.44 手足が取れてしまったカニ »

無料ブログはココログ