No.70 ついに行くことができた「井上陽水コンサート」
4月27日の夜、オリックス劇場(旧大阪厚生年金会館)であった井上陽水の「LIVE 2012 Hello,Goodbye」に行ってきた。
井上陽水といえば、吉田拓郎とともに「70年代フォーク」から「ニューミュージック」の分野での双璧である。最初に大ヒットした1972~74年ころの曲は、私の場合、多感な高校時代とほぼ重なり、とても思い入れがある。
「人生が二度あれば」「断絶」「傘がない」「いつのまにか少女は」「心もよう」「闇夜の国から」など。
しかし、この人の場合は、その後も音楽的にも文学的にも進化を続け、時代に迎合しない独自の領域を作り上げてきたように思う。
このコンサートに「行きたい」と思ったのは、4月初めの朝日新聞記事「陽水、揺らぐ揺さぶる 4月から全国ツアー」を読んだからであった。
井上陽水が4月から全国ツアーを始める。昨年の東日本大震災でツアーを中断し、「しばらく歌う気になれなかった」という。今回は満を持し、復活をかけるステージになる。
「アウシュビッツ以後、詩を書くことは野蛮である」。震災と原発事故のニュースを見ると、ドイツの哲学者アドルノのこの言葉が胸にしっくりきていた。
初期の代表作の「傘がない」は、政治なんかより好きな女の子に会いに行かなくちゃという歌詞で、「今歌うことに疑問がある」と話す。「原子力と水と石油達の為(ため)に/私達は何をしてあげられるの」と歌う「最後のニュース」も「今は適切でない気がする」という。
「『今だから元気な歌を歌ってよ』と妹に言われてね。明るい曲を、『夢の中へ』や『アジアの純真』みたいなロックを中心に、じゃあやってみようかと」
コンサートは「東へ西へ」から始まり、最後の「夢の中へ」までの24曲を、一度の休憩も取ることなく、ちょっとはにかんだようなトークを挟んで会場を和ませながら、一気に走り抜けた。
あの高音の澄み切った声で、ささやくような小声からオペラのような声量まで、また唱歌のような歌い方から絶叫まで、縦横無尽・変幻自在に歌いまくる。あっという間の2時間20分だった。
ただ、今から思うと、上で述べた朝日新聞の記事で「今歌うことに疑問がある」と話していた「傘がない」は歌わなかったが、「今は適切でない気がする」と言っていた「最後のニュース」は歌っていた。
闇に沈む月の裏の顔をあばき 青い砂や石をどこへ運び去ったの
忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れ みんな泣いたあとで誰を忘れ去ったの
飛行船が赤く空に燃え上がって のどかだった空はあれが最後だったの
地球上に人があふれだして 海の先の先へこぼれ落ちてしまうの
今 あなたにGood-night ただ あなたにGood-Bye暑い国の象や広い海の鯨 滅びゆくかどうか誰が調べるの
原子力と水と石油達の為に 私達は何をしてあげられるの
薬漬けにされて治るあてをなくし 痩せた体合わせどんな恋をしているの
地球上のサンソ、チッソ、フロンガスは 森の花の園にどんな風を送ってるの
今 あなたにGood-night ただ あなたにGood-Bye
機関銃の弾を体中に巻いて ケモノ達の中で誰に手紙を書いてるの
眠りかけた男達の夢の外で 目覚めかけた女達は何を夢見るの
親の愛を知らぬ子供達の歌を 声のしない歌を誰が聞いてくれるの
世界中の国の人と愛と兼ねが 入り乱れていつか混ざりあえるの
今 あなたにGood-night ただ あなたにGood-Bye
改めて読んでみると、1行1行が実に深い、考えさせられる曲である。
もともとこの曲は、親しかった筑紫哲也さんから、「NEWS23」のエンディングテーマとして依頼されて作曲したとされている。
震災から1年を過ぎ、政治や経済界が原発稼働再開を強引に進めようとしている中で、陽水は考えを変えたのかもしれない。
しかし、そうだとすると、「傘がない」も、むしろ、今歌うべきではないだろうか。
都会では自殺する若者が増えている 今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の雨 傘がない
行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ 君の町にいかなくちゃ 雨にぬれ
冷たい雨が 今日は心に浸みる 君の事以外は 考えられなくなる
それはいい事だろ?テレビでは我が国の将来の問題を 誰かが深刻な顔をしてしゃべってる
だけども問題は今日の雨 傘がない
行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ 君の家に行かなくちゃ 雨にぬれ
冷たい雨が 僕の目の中に降る 君の事以外は 何も見えなくなる
それはいい事だろ?
(以下、略)
いずれにせよ、陽水は、政治や社会と距離をおくように見えながら、批判・風刺を忘れない。
それが、私もかろうじて含まれる「ポスト団塊世代」の属性なのかもしれないと、勝手に納得しておくことにした。
※画像上・下とも、会場に立てられていたパネル。
画像下のパネルでは、歌われた24曲が紹介されている(クリックで拡大)。
♪ここまで読んで下さった方は・・・ワンクリックしていただけたら嬉しいです。

にほんブログ村
« No.69 宮崎の地で、過労自殺行政訴訟を提訴 | トップページ | No.71 過労死防止法の署名と快気祝い──今年のメーデー »
「5-1 コンサート・演劇」カテゴリの記事
- №348 2018年 私の6大ニュース【プライベート編】(2018.12.31)
- No.328 昨年よりバージョンアップした「無音のレクイエム」に感動(2017.10.09)
- No.326 5年ぶりの「君と歩いた青春2017」(2017.09.17)
- No.323 今年もやります!大阪憲法ミュージカル2017「無音のレクイエム」にご来場を!(2017.08.27)
- No.317 昭和の香りが漂うお店で、懐かしい歌に浸る──青木まり子さん“弾き語りLIVE”(2017.04.02)
この記事へのコメントは終了しました。
« No.69 宮崎の地で、過労自殺行政訴訟を提訴 | トップページ | No.71 過労死防止法の署名と快気祝い──今年のメーデー »
コメント