No.160 「かぐや姫の物語」──あの「竹取物語」が「生きること」を問うSFファンタジーに
1月3日、スタジオジブリのアニメ映画「かぐや姫の物語」を観てきた。
昨年8月に観た「風立ちぬ」もよかったが、私にとっては、それに勝るとも劣らないくらいよかった。特に明確な主人公の人間像があるわけではない、古典物語文学の「竹取物語」を、見事なまでのSFファンタジーにし、かつ、「生きるとは何か」を問う人間ドラマに創り上げることに成功している。
詳細な紹介をすることはできないが、ストーリー性は十分である(ちなみに、月の国で犯した罪に対する罰として地球に送られてきたというのは、昔の手塚治虫の漫画「W3」(ワンダースリー)をふと思い出した)。
一方で、養親のエゴや、男性の求愛の欺瞞性も描いている点では大人向けともいえるし、そのような愚かさも含めた人間の「生きる営み」を全体として肯定している点では、いわば仏教の悟りのようなものをも感じさせる。
また、絵がとてもすばらしい。あえてジブリの他の作品との違いを言えば、主人公の表情や動きの描写が実に豊かである(主人公は絶世の美女であるが、幼女のような愛らしい表情になることもあれば、仁王のような恐ろしい表情になったり、能面のように自分を押し殺した表情になったりする。特に、真夜中に宮中を飛び出して生まれ育った故郷に疾走する場面は圧巻である)。
また、例えば「風立ちぬ」では写真に近い水彩画であるのに対し、クレヨンのような描線が基調になっていることから、「鳥獣戯画」のように柔らかく、温かい描画になっている。こんな描画が描けるのは、日本のアニメ、中でもジブリだからこそではないだろうか。
また、脇役のキャラクターの容姿もとても個性的である。たぶん、実際の声役の俳優に近い容姿にしているのではないかと思う(例えばかぐや姫は朝倉あき、捨丸は高良健吾、翁は地井武男、相模は高畑淳子、阿部右大臣は伊集院光、御門は中村七之助、車持皇子は橋爪功というそれぞれの声役にとても似ている)。
高畑監督が入社早々から構想していたもので、企画から完成までに8年、製作費50億円を費やしたという。その間に、製作者の氏家齊一郎氏が2011年に亡くなり、「翁(おきな)」(おじいさん)の声役の地井武男氏が、声収録後の2012年6月に亡くなっているのだから、制作に関わった人たちの人生の重みまで感じる作品である。こんな作品を、わずか1000円(夫婦どちらかが50歳以上割引(笑))で観させてもらうのは、少し申し訳ない気がする。
また、日本にすばらしいアニメ映画が一つ加わったといってよいだろう。ぜひ、子どもたちだけでなく、大人も含めて、たくさんの方々に観てほしいと思う。
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