No.289 無差別テロの恐怖と、日本の果たすべき役割
◆頻発する無差別テロ
世界各地で一般市民を巻き込んだ無差別テロが頻発している。この半年あまりだけをとってみても、次のようなものがある。
①2015年11月15日 フランス・パリで同時多発テロ(銃撃と爆発)、130人が死亡
②2016年3月22日 ベルギー・ブリュッセル国際空港と地下鉄で自爆テロ、36人が死亡
③6月28日 トルコ・イスタンブールのアタチュルク空港で自爆テロ、48人死亡(犯人を含む)
④7月1日 バングラデシュ・ダッカのレストランの襲撃と爆発で、日本人7人を含む28人が死亡
⑤7月14日 フランス・ニースでトラックが一般市民を襲撃、84人が死亡
これ以外に、もちろんイラクやアフガニスタン、トルコなどでは毎日のように自爆テロが起こっているが、上記の無差別テロは、私たち日本人も海外旅行で訪れる観光地や国際空港で行われ、私たち日本人もいつ巻き込まれてもおかしくない事件である。
特にバングラデシュの事件では、現地で様々な支援活動をしている日本人が狙われたと見られている。恐らくこんなことは初めてではないだろうか。
私自身、2013年4月末に、ジュネーブで行われた国連社会権規約委員会の日本審査会議の傍聴(「No.118 国連社会権規約委員会が、過労死・過労自殺の防止を日本政府に勧告!」参照)に先立ってパリ市内を観光し、また、傍聴ツアー解散後のプライベートツアーで5月初め、ニースなど南フランスを観光し、最後に再びパリに戻って日本に帰国した。
また、2014年4月中旬、ベルギーのブリュッセルで開かれた国際法律家協会(IADL)大会参加をメインとするツアーに参加した(「No.176 世界各地の人権闘争を交流し合う意義───IADLブリュッセル大会とポーランドの旅(その1)」参照)。
さらに、バングラデシュではないが、その北西にあるネパールのカトマンズで開かれた第6回アジア太平洋法律家会議(COLAP6)に参加するために、6月17日から23日までネパールを訪問してきた(「No.287 アジア・太平洋の22か国の法律家がネパールに集う」参照)。
そのような、自分が行ってきた都市や空港での無差別テロのニュースや映像を見ると、自分が巻き込まれたらどうだろうかと震え上がる。これからは外国に行くこと自体、そのつど躊躇することになるだろう。
特に、南フランスのニースの無差別殺人が行われた美しい海岸は、私と妻が一泊して歩いたところであり、あんな穏やかな観光地で事件が起こったことが、いまだに信じられない。
◆無差別テロが起こる背景・原因
安倍首相をはじめ、各国のトップの人たちは安易に「テロに屈しない」などと威勢のいいことを言うが、自分はSPに四六時中警護されているのであり、被害に遭うのは何の罪もない一般市民である。また、このようなテロを完全に防止することは至難の技である。
もちろんテロは断じて許されないものであり、糾弾することは当然であるが、このようなテロが行われる背景には、宗教対立に加えて、発展途上国における先進国同士の権益争い、先進国の収奪も一因となった貧困や失業、政治的不安定と大国の介入、武器の販売などがある。
特に最近の無差別テロはイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が関与しているものが多いが、そのような過激派組織が生まれたのは、アメリカが開始したイラク戦争が原因だと言われている。そのイラク戦争には多数の国が多国籍軍として参加し、日本もこれを支持したが、その口実とされた大量破壊兵器は見つからなかった。
イギリスではつい最近の7月6日、英ブレア政権が2003年にイラク戦争に参戦した経緯や侵攻後の占領政策を検証した独立調査委員会(チルコット委員会)が報告書を公表した。参戦の決断を「(フセイン政権の)武装解除の平和的な方策を尽くす前に侵攻に参加した。軍事行動は当時、最後の手段ではなかった」と断じ、開戦から13年を経て、自国政府の判断や評価の過ちを厳しく指摘している。
このように、米英主導で開始した「誤った戦争」が、今日の中東での内戦や世界各地での無差別テロにつながっているのである(ところで、小泉元首相は首相を降りてから、首相時代の原発推進政策を反省し、反原発を訴えているが、安易にアメリカに追随してイラク参戦を支持したことについては、反省しないのであろうか。自らが検証委員会を作り委員長になって調査してもよいのではないだろうか)。
◆日本の進むべき道
現在の安倍政権は集団的自衛権や安保法制など、憲法の枠を超えてまで軍事力の拡大に前のめりであるが、現代の戦争は、単に軍艦や戦闘機や戦車を送り込むということだけでなく、このような自爆テロや無差別テロによって敵国に打撃を与えることも含まれるのである。
ISに敵国と見なされ(バングラデシュ事件からわかるように、日本は既に敵と見なされている。)、パリやニースのようなことが、日本の銀座や湘南海岸で起こらないといえるのか。また、2020年の東京オリンピックの会場や各地の観光地で自爆テロが起こらないといえるのか。
私は、今やすっかり傷ついてしまったが、日本が憲法9条のもとで長年にわたって築いてきた「平和ブランド」を復活させ、また日本の豊かな経済力を使って、平和主義国家日本にふさわしい平和外交や経済支援を行っていくべきではないかと思う。
◆憲法改正で導入しようとしている「緊急事態宣言」の恐ろしさ
ところで、安倍政権は憲法改正を目論んでおり、自民党の改正案には「緊急事態条項」が盛り込まれ、「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるとき」は緊急事態宣言を発することができ(草案98条1項)、その場合、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができ」(同99条1項)、「内閣総理大臣は‥‥地方自治体の長に対して必要な指示をすることができ(同)、「何人も‥‥国その他公の機関の指示に従わなければならない」(同99条3項)とされている。
もしこのような憲法改正がなされれば、日本国内で無差別テロが起こったような場合には「緊急事態宣言」が出されることになるだろう(実際、フランスでは前述のパリ同時多発テロ後に緊急事態宣言が出され、今般のニース事件で延長されている)。
そのときには政令によって表現や集会の自由が制限されたり、新聞やテレビの報道が統制されることになるだろう。まるで近未来のSF小説のようなことが、現実のものになるかもしれない。
日本国内での無差別テロももちろん怖いが、憲法が改正されて、それに対する報復戦争(アメリカのブッシュ大統領は9・11米同時多発テロに対して「これは戦争だ!」と叫び、その報復としてアフガニスタンへの空爆を開始した。)に走ったり、緊急事態宣言により戦時国家体制が作られることは、それ以上に恐ろしいと思うのである。
※写真は、2013年5月初めに訪れたニースの美しい海岸線(上)と、海岸脇の道路(下)
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