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2018年5月17日 (木)

№335 軍隊が市民に銃を向ける恐怖──韓国映画「タクシー運転手」を観て

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 ゴールデンウィーク最終日の5月7日(日)、梅田の「ブルク7」で韓国映画「タクシー運転手~約束は海を超えて~」を観てきた。
 1980年5月18日、韓国・全羅南道の光州市。朴正煕(パクチョンヒ)大統領の暗殺を機に軍がクーデターを起こし、これに乗じて政権を握った全斗煥(チョンドファン)大統領は、圧政に抗議する光州市学生と市民に対し、戒厳令を敷いて光州を封鎖・隔離し、ついには市民に無差別に発砲した。これが「光州事件」である。
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 映画は、封鎖された光州市に潜入し、市民弾圧を取材して世界に知らせようとするドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーター(トーマス・クレッチマン)と、これを運ぶタクシー運転手キム・サボク(ソン・ガンホ)が主役である。
 映画の感想は、多くの人たちが書いているので、そちらに譲りたい。ここでは、少し違った観点から、以下、いくつか感じたことを書いておきたい。
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①武装した軍が武器を持たない(せいぜい石や棒程度)市民に一斉に銃口を向け発砲する恐怖
 訓練を受けた兵隊が、命令を受け、同じ国民を狙って狙撃する。撃たれた仲間を助けにいって自らも撃たれる人たち。軍隊や警察が国家の「暴力装置」であることを改めて実感する。
 また、この光景が沖縄の辺野古で、米軍基地の新設に抗議する人々を暴力的に排除する機動隊と重なって見えたのは、私だけではないだろう。
180515

②戒厳令の恐ろしさ
 戒厳(令)とは、戦時や自然災害、暴動等の緊急事態において兵力をもって国内外の一地域あるいは全国を警備する場合に、国民の権利を保障した憲法・法律の一部の効力を停止し、行政権・司法権の一部ないし全部を軍部の指揮下に移行することをいう。民衆の抗議・デモ等により政府が危機に陥った際に、反政府勢力を抑える目的で戒厳令が布かれることがあるが、光州事件における戒厳令は、その典型である。
 自民党が進め、憲法に書き込もうとしている「緊急事態条項」は、本質的に戒厳令と同じである。
 自民党憲法改正草案の「第九章 緊急事態」には、次のような条項がある。

第98条(緊急事態の宣言)
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2~4(略)

第99条(緊急事態の宣言の効果)
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2(略)
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4(略)

 恐ろしいのは、戒厳令(緊急事態宣言)を出すかどうかは、衆議院の解散のように内閣総理大臣が独断で決めることができるということである。「閣議にかけて」とあるが、内閣総理大臣は反対する大臣をいつでも罷免できるのであるから、閣議決定は実質的に歯止めにはならない(今の安倍政権が何でも「閣議決定」していることを見てもわかる)。

③韓国版のパリ・コミューン
 光州での市民の闘いは全斗煥政権によって武力で鎮圧されたが、その後も国民の闘いは広がり、それが頂点に達した1987年6月、全斗煥の後継指名を受けた盧泰愚(ノ・テウ)が「民主化宣言」を発表、その後紆余曲折を経つつも民主主義は定着していき、昨年の「ロウソク革命」にまで連綿とつながっている。
 そのような観点から見るとき、光州事件は韓国版のパリ・コミューンと言ってよいのではないだろうか。
 ひるがえって日本について考えると、私たちはこのような民主化闘争によって民主主義を勝ち取ったという国民的な経験をしたことがない。戦前は自由民権運動や大正デモクラシー、米騒動などがあったがほぼ壊滅させられ、戦後は、「2・1スト」は不発に終わり、安保闘争や学生運動も政治体制の民主化にはつながらなかった。その無力感、ニヒリズムを今も引きずっているのではないか。
 日本には、このように映画化するような輝かしい民主化闘争はなかったように思う。

④歴史を若い世代に伝えることの大切さ
 この映画を制作したチャン・フン監督は、「光州事件はあれほど大きな悲劇だったにも関わらず、40年近く経った今、韓国の若い人たちの多くは、何が起こったのかあまり深くは知らない状況です。光州事件での市民たちの戦いがなければ、現在のような民主化はなされていなかった可能性もありますし、犠牲になった方々の名誉のためにも、今、改めてこの事件を広く伝える必要があると考えました。」と話している(「「韓国の若い人たちの多くは、光州事件を深くは知らない」『タクシー運転手』監督インタビュー」)。
 確かに、今や韓国の国民の半分以上の人は光州事件を知らないだろう。その人たちに、このような形で事実を伝えていくことはとても大切だと思う。
 韓国でのこの映画の観客動員は1200万人以上。人口が2倍の日本でいえば2400万人となる。「千と千尋の神隠し」が2350万人、「アナと雪の女王」が2000万人だから、その人気がわかろうというものである。
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 ちなみに、韓国で驚異的な視聴率(最高視聴率64.5%、平均視聴率45.3%)を出した社会派ドラマ「砂時計」の第7話・第8話で光州事件が取り上げられていたが、これも凄まじかった。
 このような形で民主化闘争の国民的体験が次世代に伝えられていることを、ある意味で羨ましく思う。

 ということで、いろんな意味で味わい深い映画である。
 まだ観ておられない方は、ぜひご覧ください。

 ※画像は上から
 ①映画「タクシー運転手」のポスター
 ②映画の中の場面
 ③光州事件についての当時の読売新聞の記事
 ④当時の現地の写真
 ⑤「砂時計」のポスター
 いずれも、ネットから借用させていただきました。


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